ー社員によるリレーエッセイー Vol.6 中村有沙

Vol.6 「ありがとう」が活力

管理本部人事部
中村 有沙

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 5年前、学生だった私は「患者さんに長期的にかかわりたい、予防医療にもかかわりたい」と思い、薬局薬剤師の道を選びました。
 私は現在、人事部に所属していますが、半年前までは薬局の現場で働いていました。今回、このリレーエッセイの執筆にチャレンジしてみないかと話をいただいたとき、何をお伝えしようかと悩みましたが、若手薬剤師ならではのことを書きたいと思い、私の現場での体験を皆さんにお伝えさせていただきます。

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 まずひとつ目は、ある女性の患者さんとのエピソードです。その患者さんは、ご自身の薬だけでなく、ご主人の薬やOTCについてなど、よく薬局に相談に来られる方でした。たまたまですが、私が対応することが多く、つたないながらも誠実に患者さんに寄り添って対応しているつもりでした。当時は、後輩の育成も担当するようになり、薬局の仕事はひととおりこなせるようになっていましたが、「私がしていることは患者さんの役に立っているのか」と感じることもあり、自分自身の中に霧がかかったような状態でした。
 その患者さんと初めて出会ってから1年ほどたったころだったと思います。いつものようにその患者さんの相談に対応していたら、「私ね、あなたのファンなのよ。いつもありがとう」とぎゅっと手を握ってくださいました。突然のことに驚きましたが、「こんな私でも患者さんの役に立てているんだ!」とうれしくて涙があふれそうになりました。そのときに感じた充実感と患者さんの手のぬくもりは、今でも鮮明に覚えています。この経験をきっかけに、自分の中にかかっていた霧が晴れ、それまでよりも自信を持って仕事ができるようになりました。
 また、ひとりでも多くの患者さんに「薬剤師がいて安心した、助かった」と思ってもらえる薬剤師になれるよう決意を新たにしました。

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 2つ目は、調剤後のフォローの必要性を感じたエピソードです。皆さんもご存じのとおり、2019年12月に改正・公布された薬剤師法と薬機法により、調剤後のフォローが義務化されました。当社においては、法律で義務化される以前から、サポートコールと称する電話による調剤後のフォローを行っていました。たまたま私が初回来局時に担当した患者さんが服薬に対して不安があるように感じたので、数日後に電話をかけてみました。患者さんは、まさか薬剤師から電話がかかってくるとは思っていなかったようで、「薬局ですか?何事ですか! ?」と驚かれていましたが、患者さんの様子が心配だったので電話したことを伝えると、そのときの体調や服薬状況などを教えてくださり、「気にかけてくれてありがとう」と感謝の言葉をいただきました。
 そして、次の来局時に「この間は電話をありがとう。これからもあなたに担当してもらうことはできるかしら?」と患者さんから声をかけていただきました。薬剤師冥利に尽きる言葉をいただいた私は、薬剤師という薬の専門家から患者さんに声をかけることは、患者さんの安心につながっているということを強く感じました。薬剤師から「体調お変わりないですか、心配なことはありませんか、何かあったらいつでも相談してください」と発信しつづけ、誠実な対応を一つひとつ積み重ねていくことで、信頼される薬剤師・薬局になっていけるのだと思いました。

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 採用業務をする中で、薬学生の皆さんから「やり甲斐、成長という面では病院薬剤師」という声を耳にしたことがあります。決してそんなことはありません。薬局薬剤師にも大きなやり甲斐があります。私の場合は、高い専門性を発揮したり、終末期の在宅医療にたずさわっていたわけではありませんが、患者さんにかかわることが楽しく、とてもやり甲斐を感じていました。目の前の患者さん一人ひとりに誠実に向き合っていれば必ず得るものがあります。
 これからは自分の経験を生かし、少しでも多くの薬学生の皆さんに薬局薬剤師の魅力について伝えていきたいと思っています。