ー社員によるリレーエッセイー Vol.7 平田恭洋

薬局のメンバーとともに。いちばん左が平田

Vol.7 心のかたち

ファーマシィ薬局引野
平田 恭洋

TURNUP第57号はこちら

 私は今、在宅業務、多職種連携、入退院支援などの医療連携に力を入れています。そして、在宅医療のポイントは患者さんのケアを「多職種で協力して行うこと」、「安全かつ質を高く行うこと」、「皆が同じ水準で行うこと」だと認識しています。

*********************

 最近、多職種連携、医療安全、薬剤師の役割などの講演発表の機会をいただくことが増えてきました。その中で、「薬薬連携をこのように行う」、「多職種との連携やチーム医療の中で、薬剤師はこのような活動をしている」など自身の行ってきた業務、活動について紹介をしていますが、最終的にいつも同じ内容にいきつくことに気がつきました。

*********************

 突然ですが、皆さんは「仁」とは何かご存じでしょうか?『広辞苑』によると、「仁」とは「孔子が提唱した道徳観念、いつくしみ、礼にもとづく自己抑制と他者への思いやりであり、万人の平等を実現する相互的な倫理」と書いてあります。実は、日本人は生まれつきこの「仁」を強く持っている傾向があり、日本人は思いやりが強く、他者への配慮ができる文化を構築している国民であると言われています。


 医療において「仁」はとても重要です。私の業務は、患者さんの薬剤整理、状態チェックはもちろんですが、注射の施行時に確認する手順書(注射計画書)を看護師が安全かつ効率的に施行できるように作成したり、患者さんが入院する際の入院時支援(薬剤管理サマリー)を、入院先医療機関が安全かつ迅速に療養の引き継ぎができるように医療機関と共有したりしています。また、福山地区で行っている初回カンファレンス(初診時に多職種が同席し、患者さんの今後の療養について検討する集まり)では、皆が同じ方向性、共通認識を持ち、療養のサポートを行うために協議を行います。
 これらの業務は、現在では当たり前のように行われていますが、誰かに指示されて始まったものでも、法令で決められていたものでもありません。どの業務も、チーム内のスタッフやチーム外の方々が安全かつ問題なく業務ができるように思いやりの意を込めて始まっています。これらは、一人ひとりの患者さんを思いやる気持ちがかたちとなり、今の業務体制にいたったということになります。


 在宅医療に限らず、皆さんの薬局でも「仁」はさまざまなかたちとして表れています。たとえば、地域活動はボランティアとして地域の方々の健康増進を思いやる気持ちがかたちになっています。かかりつけ薬剤師も、患者さんの命、健康、生活を思いやる行為が業務と認められています。薬機法も同様であり、調剤後薬剤管理指導加算、調剤後フォローアップなどは、患者さんの健康を気遣う気持ちとして生まれた良い例だと思います。


 言うなれば、医療従事者として尽力する=「仁」を持って行動しているかどうかではないかと考えています。世の中は、デジタル化、イノベーションによりものすごい速度で変革を遂げており、AIやIoTの普及により医療従事者の職能も今後、変化していくことが危惧されています。また、コロナ禍を取り巻く世の中のかたちは、社会を再考せざるをえなくなってきています。


 世の中からどんどん「仁」が失われているように感じます。機械にはないもの、それは「仁」ではないかと思います。私たちが生き残る道は「仁」を貫き通すことではないでしょうか。患者さんに対し、また、ともに働き、すごす方々に対し、思いやりと感謝を持ちつづける。今こそ日本人の強みを思い出し、自分たちの職能を世の中に示しつづけるような姿勢をとっていきたいと強く思っています。